ZEBとは
まずは、「ZEB(ゼブ)」とは何か、混同しやすい「ZEH(ゼッチ)」との違いをふまえて解説します。
ZEB(広義)とは、快適な室内環境を実現しながら、年間の一次エネルギー消費量の収支を正味ゼロまたはマイナスにすることを”目指した”建築物 のことです。一次エネルギーの消費量を削減するためには、例えば、建物を建築する際に断熱性能の高い壁や窓、電力消費の少ない照明(LEDなど)を取り入れる方法などが挙げられます。
上記の方法だけでは一次エネルギーの収支がゼロにならない場合、太陽光発電などを利用してエネルギーを生成し補うこともあります。
建物の維持やそこを利用する人がエネルギーを消費するため、エネルギーの収支をゼロにすることは簡単ではありませんが、省エネ・創エネなど様々な方法を実施することで、エネルギー消費量の収支を正味ゼロにすることは可能になるのです。
ZEBと似た言葉に「ZEH(Net Zero Energy House)」があります。この二つの違いは、対象が「ビル・オフィス 」か、「一般住宅」かです。
ZEH(ゼッチ)は、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味であり、対象が「一般住宅」です。そのため、家庭で使用するエネルギーと太陽光発電などの創エネのバランスをうまくとり、年間で消費するエネルギー消費量の収支を実質ゼロ以下にすることが求められます。
■ZEBの段階
ZEBには、「Nearly ZEB」や「ZEB Ready」など4つの段階が設けられています。
●ZEB(狭義)
Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と読みます。年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物です。(※)
※引用:環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」より引用
具体的には、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量削減
- 再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減
●Nearly ZEB(ニアリー・ゼブ )
省エネ(50%以上)+創エネで75%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物です。そのため、「Nearly(ほぼ・あと少し)」とつけられています。ZEBに限りなく近い段階ではありますが、ZEBとは異なります。
●ZEB Ready(ゼブ・レディー)
再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量を削減している建物です。Nearly ZEBは「限りなくZEBに近い」と定義されているのに対し、ZEB Readyは「ZEBを見据えた先進建築物」と定義されています。
●ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)
「Oriented」は「指向」という意味があり、あくまでも「ZEBを指向している」状態であり、「ZEB Readyを見据えた建築物」と定義されています。
ZEB Orientedは、「延床面積が10,000㎡以上」かつ「建物の用途ごとに定められている(※)エネルギー消費の削減量を満たすこと、未評価技術の導入などにより省エネを図ること」が求められます。
※事務所・学校・工場等40%以上、ホテル・病院・百貨店等30%以上
■どうしてZEBが必要なのか
日本では、地球温暖化対策の一環として、『2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すこと』が宣言されました。その計画の中で、オフィスビルや商業施設などの業務部門では2013年と比較して51%のCO2排出量を削減することが目標とされており、建物におけるエネルギー消費量を削減することができるZEBが注目を浴びています。
既存建築物もZEB化は可能
必ずしも最先端の技術を導入しなくても、 外皮断熱や高効率空調機、太陽光発電などを組み合わせることで、自社のオフィスやビルをZEB化することが可能です。ここからは、実際に既存の建築物をZEB化した事例を紹介します。
■ZEBの事例 久留米市環境部庁舎
福岡県久留米市にある、「久留米市環境部庁舎」は、日本の既存公共建築物として初めての「ZEB」認証を受けた建物です。外皮性能の向上やLow-Eペアガラスを導入し、空調設備のダウンサイジングによってイニシャルコストの低減とエネルギー消費量を削減。さらに、広い屋根面積を活用した容量の大きな太陽光発電システムの導入によって、ZEBを実現しました。
■Nearly ZEBの事例 白鷺電気工業株式会社 本社ビル
このビルは、「熊本地震」を契機として、震災復興の象徴となるべく「災害に強いビル」、「ZEBの導入」、「働き方改革」という3つのコンセプトに基づいて改修を実施しました。ZEB化による長期的な視点に立ったエネルギーの削減や、労働環境の改善などによって企業としての価値も向上するなど、副次的な効果も得られています。
■ZEB Readyの事例 株式会社モーリショップ名古屋支店
こちらの会社(インテリアショップのショールーム)は、空調設備の老朽化により、故障が頻発していたことから、設備交換を機にZEB化を決断しました。
中古ビルをZEB化することで長期的に安心して使用したいという思いがあり、店舗営業をしながら 空調を使わない時期にフロア単位で段階的に改修を行うことで、休業せずにZEB化に成功。空調を高効率設備へ一新し、全館LEDライトにすることで電気代が改修前の3分の1にまで削減されました。
※参考:環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」
既存建築物のZEB化の流れ
ここからは、既存建築物をZEB化する際の流れについて解説します。
■①ZEB化の改修計画を策定
自社のビルやオフィスをZEB化するために、まずは建物の現状を把握しましょう。竣工時や改修時の図面や設備の計装図を確認し、それをもとに専門家と目指す水準やスケジュール、費用などを具体的に検討します。一般社団法人 環境共創イニシアチブが登録・公表している「ZEBプランナー」が、ZEB実現に向けた相談窓口を担っています。自社の現状を踏まえて適したプランナーを探して、相談すると良いでしょう。
■②設計仕様書の作成
プランナーとともに改修計画を策定したら、設計仕様書を作成します。建物が備えるべき機能や設備、デザインを概略的にまとめて仕様化し、説明できるようにしましょう。ZEB化は、必ずしも一度で改修工事を完了させなければならないというわけではなく、数年後のゴールを見据えて段階的に行うことも可能です。そうしたスケジュールを確認しながら、設備改修などの具体的な書類を作成します。
■③ZEB設計事業者の公募・詳細設計
仕様書を作成したら、それをもとに詳細な設計をしていきます。ZEBの設計事業者を募集する時には、補助事業 を活用するかどうかで事業者を選ぶこともポイントになります。事業者を決定したら、イメージや予算などを具体的に検討しながら設計仕様書を作成しましょう。
■④ZEB認証手続き・補助事業申請
ZEBを実現するためにはBELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)による評価が必要です。具体的な時期などの規定はありませんが、「省エネ適合性判定」を同時に行うことが一般的とされていますので、事業者やプランナーと相談しながら決定することをおすすめします。
■⑤施工・竣工検査
補助事業などの申請が通り、準備が整ったら施工を開始します。施工は、補助事業を活用する場合には単年度で完了させるのが一般的ですが、規模によっては年度をまたいで行うケースもあります。また、補助事業を活用した場合、「竣工検査」という検査を受ける必要があります。建物によりスケジュールは異なるため、詳しいことはプランナーに確認しましょう。
■⑥補助事業の実績報告書提出
補助事業を活用する場合は、実績報告書の提出も必要です。計画の策定から報告書提出まで対応内容も多く時間もかかりますが、ZEB化は企業にとってメリットがあるため、前向きに取り組む姿勢を持つと良いでしょう。
ZEB化するメリット
ここまで、ZEBに関する基本的な知識や事例、流れについて解説しました。手続きや作業が煩雑という印象をお持ちかもしれませんが、ZEB化にはエネルギー消費量を削減すること以外にもメリットが数多くあります。本記事では中でも、次のメリットについて解説します。
- 光熱費の削減
- 快適性や生産性の向上
- 不動産価値の向上
■光熱費の削減
ZEB化の大きなメリットは、光熱費の削減です。原油や天然ガスの価格は高騰が続いてており、消費者の生活にも大きな影響を与えていますが、それは企業にとっても同じことです。ZEBはエネルギーの消費量を可能な限り削減する取り組みであるため、エネルギーの価格高騰にも対応することができ、価格高騰による影響を軽減することができます。
■快適性や生産性の向上
ZEBは、省エネルギー性能を高め、自然エネルギーをうまく活用することで空調設備などの制御を行います。温室効果ガスの排出を抑えるために暑さ寒さを我慢をするのではなく、環境に配慮しつつ快適な温度で過ごすことができます。結果的に従業員が快適な状態で業務に取り組めるため、生産性向上も期待できます。
■不動産価値の向上
環境経営に取り組む企業の増加に伴い、ビルがどれだけ環境に配慮しているのかを気にする企業も増加しています。また、環境に配慮した建築物は投資家からの注目も高まってきています。建物のZEB化は省エネ・創エネだけではなく、不動産価値の向上につながるともいえます。
ビルオーナーとテナントが協力する「グリーンリース」とは?
「グリーンリース契約」とは、国土交通省のホームページでは「ビルオーナーとテナントが協働し、不動産の省エネなどの環境負荷の低減や執務環境の改善について契約や覚書等によって自主的に取り決め、その内容を実践すること」とされています。その取り組みにより、光熱費削減などの恩恵をビルオーナー・テナントともに受けるため、双方にメリットがある内容となります。企業イメージアップや従業員の健康、快適性の向上も見込めるため、社会的な信用向上にもなるでしょう。
まとめ
今回は、ZEBやオフィスのZEB化について解説しました。ZEBは、実現してもその後、運用を継続できなければ意味がありません。実現後の計画を具体的に立案し、オーナーやテナント、ステークホルダーなどが協力する体制を整えることで、より良いZEB化につながります。
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