地震や台風などの自然災害や、火災やテロなどの緊急事態が発生した時の対策として、企業に求められるのがBCP(事業継続計画)です。BCPとは、万が一大規模災害などに見舞われたとしても、事業を中断することなく復旧・再開し継続するための計画です。
十分なBCPを策定・運用するには、拠点となるオフィス選びから考える必要があります。本記事では、BCPを意識したオフィス選びや、入居後のオフィスで実施できる対策を解説しますので、今後のオフィス選びにお役立てください。
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BCPとは
BCPとは、Business Continuity Planの略称で、「事業継続計画」と訳されます。
中小企業庁の定義では「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」とされています。未曽有の災害が頻発する現代において、欠かせないリスク管理の一つといえます。まずは、BCPの目的について説明します。
■BCPの目的
近年、大規模自然災害やテロなどが数多く発生しています。BCPは1970年代から提唱され始め、2001年に起きたアメリカ同時多発テロをきっかけに、世界的にその重要性が広まりました。日本の多くの企業では、東日本大震災を契機にBCPが導入されるようになりました。
2019年以降のコロナ禍では、世界各地で緊急時のトラブル対応や事業の早期復旧などの対策の有無が、企業の存続に大きな影響を与えました。緊急事態下では、長期間にわたり商品やサービスを提供できない状態が続き、事業停止を余儀なくされてしまうことが予測されます。そのため、緊急事態下でも自社の機能を停止させることなく、平常時と変わらない状況で運営することや早期復旧に全力を注ぐ必要があります。
BCPの目的は、トラブルが起こった時の社内外に向けた対応策や、中核事業の早期復旧方法を決めておくことで、可能な限り従業員や取引先に影響なく事業を継続できるようにしておくことです。BCPを効果的に運用することで、企業の社会的価値の維持・向上にも繋がります。
■BCPが必要な理由
BCPが企業や組織に必要な理由は、主に以下の二つです。
・緊急時にも冷静、的確に行動できる
・人命や組織そのものを守ることに繋がる
以下、それぞれについて詳しく解説します。
●緊急時にも冷静・的確に行動できる
自然災害やテロは、いつ起こるか分かりません。BCPを策定し事前に取り組むことで、緊急時でも事業を早期復旧させることが可能です。
例えば、本社が災害などでダメージを受けたとしても、支社などで対応できるように事業の機能を分散しておくことや、商品の生産が止まることのないよう複数の拠点を設置することなどが、BCPとして挙げられます。
また、災害やテロにより出勤ができない場合においても、平常時からリモートで業務ができるように環境を整えることや、オフィス以外の場所での作業ルールを策定することなどに取り組むことで、緊急時にも冷静・的確に行動できます。
●人命や組織そのものを守ることに繋がる
災害やテロなどが発生した場合には、従業員や在館者の人命を最優先に考えて行動しなければなりません。そのため、会社経営や従業員の雇用管理のみならず、緊急時に取るべき行動の立案が大切です。
過去には、災害のダメージを受けた企業が人材や設備を失い、廃業せざるを得なくなったケースが多々あります。また、復旧に時間が掛かったため、商品やサービスの提供ができなくなり、従業員の解雇を余儀なくされたケースもありました。
BCPを事前に策定し、平常時から「緊急時はどのように行動するべきか」を理解しておけば、従業員それぞれが最適な行動を取ることができ、企業・組織として従業員の安全確保にも繋がります。
BCPを考慮したビルの機能
BCPを意識したオフィスビルに入居するのも、一つの対策方法です。
そのようなオフィスビルを検討する際には、どのような条件で探すのが良いのでしょうか。
■耐震性能
耐震性能とは、地震が起こった時に建物がどれだけ揺れに耐えられるかを表す性能のことです。
現在の建築物の多くは「建築基準法」(1981年改正)に則った耐震設計が行われていますが、その中でも新耐震基準を満たした物件(建築確認日が1981年6月1日以降の新耐震基準を満たした物件のこと)を選ぶことが大切です。理想の物件を検討する際には、そのビルの竣工日や表題登記日だけではなく建築確認日を確認し、旧耐震基準のビルであった場合には耐震工事が施工されているかを事前に確認しましょう。
▽耐震性能の特集記事はこちら
地震発生時の被害を抑える!耐震・制振・免震について解説
■非常用電源
非常用電源は、災害やテロなどの緊急事態で通常の電力供給が停止した時に
、ビル独自の発電やビル内の蓄電により電力を補う設備です。
オフィスビルを検討する際には、発電機の種類や人命救助のタイムリミットとなる時間(72時間)分の電力供給が確保されているかなどを確認しましょう。
■水道インフラ・給排水設備
災害などでビルがダメージを受けると、給水管の破裂などで水の確保ができなくなる可能性があります。給水管の耐震化や貯水タンクの設置など、緊急時に備えた給排水設備が確保されているか確認しましょう。
■備蓄倉庫
備蓄倉庫は、自然災害などに備えて防災用品や食料などを保管するための施設です。企業は従業員や顧客などの身の安全を考え、災害発生から3日間は従業員が施設内にとどまっても問題ないように、食料や水分などの備蓄品を準備する必要があります。
東京都では「東京都帰宅困難者対策条例」が定められており、事業者は、従業員や来館者の帰宅困難者対策として、次の備蓄品の備蓄が義務付けられています。
・水
災害などの緊急事態が起こった際、ビル内の水道が断水する可能性があります。飲料水の備蓄量の目安は1日1人当たり約3リットル必要とされています。3日間であれば1人当たり9リットルが必要になり、9リットル×人数分の飲料水を備蓄しなければなりません。備蓄用の水の賞味期限は5~7年程度、場合によっては15年ほど長期保存できるものもあります。
・食料
食料は、ガスや電気が使えないことを想定したものを用意しておくことが必要です。一般的な備蓄食料は、乾パン・アルファ米・インスタント麺などです。このほか、栄養バランスを考え、缶詰なども備蓄すると良いでしょう。
なお、備蓄しておく量は1日1人3食×人数分と大量になります。備蓄品はオフィスの管理会社が用意しているケースもあるため、入居するオフィスの管理会社に確認するとより良いでしょう。
・簡易トイレ
災害時には、断水や建物の損壊によってトイレが使えなくなる可能性もあります。簡易トイレは、感染症対策や衛生面を保つためだけでなく、体調にも影響するため十分に準備しましょう。
なお、トイレの使用回数は1日1人当たり5回が基準となるため、3日間で1人15回分となり、人数分準備しておかなければなりません。
・その他
水や食料、トイレの他にも、毛布・医薬品・懐中電灯・ラジオ・マスクなどの備品を準備しましょう。地震やテロなど緊急事態に備え、事前にシミュレーションしておくことも必要です。
■周辺環境
オフィスビルを検討する際やBCPを策定する際には、オフィスの周辺環境を把握し、災害時に予測される影響(浸水や液状化など)を確認しておくことが大切です。特に、ハザードマップを活用した避難経路の確認や、帰宅困難者が出た場合の対処方法の確認は忘れずに行いましょう。
またその上で、地域の防災訓練に参加して避難場所の共有などができるよう、平時から周辺企業や住民との協力関係を構築することも重要です。協力体制の構築が難しい場合には、避難可能な施設が周辺にあるかを確認する必要があります。
■防犯対策
想定される緊急事態には自然災害だけでなく、テロやサイバー攻撃など人的災害も考えられます。そのため、BCPを策定する時には自然災害対策だけでなく、人的災害対策も想定しておかなければなりません。
平時から入退室管理システムや監視カメラなどのセキュリティシステムを効果的に利用する他、立てこもりなどが発生した場合にはどのように行動すべきか、事前にシミュレーションしておくと従業員が冷静・的確に行動できます。
■BCPを意識したオフィスビルの具体例
ここまでは、オフィス選定の段階で確認したいBCPにまつわる設備や要素についてご紹介しました。
具体例として、2023年竣工予定の「虎ノ門ヒルズステーションタワー」は、「高性能オイルダンパー」と「座屈拘束ブレース」の2種類の制振装置を組み合わせた制振構造を採用し、風揺れや中小地震から東日本大震災レベルの地震まで幅広く制振効果を発揮できるよう設計されています。
さらに、隣接する森タワーやビジネスタワーと合わせて約5,600人規模の一時滞在スペースを確保することが可能です。また、3日間の受け入れに備えた備蓄倉庫や防災井戸、災害用電力も確保されているなど、入居企業が安心して事業運営を行うための様々な取り組みがなされています。
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オフィスで実施できるBCP
オフィスで実施できる対策には、入居後に実施できるものも多くあり、大切な従業員の安全と顧客・取引先のデータ保護にも繋がります。入居後に実施できる対策は、主に次のとおりです。
■什器の固定
オフィス内の背の高い什器や大きな什器は、地震の振動で転倒する可能性があるため、床や壁などに直接固定するのが理想です。什器の上下をネジやボルトで固定することで、強い揺れが発生しても転倒のリスクを軽減できます。
上記の様に直接什器を固定できない場合は、突っ張り棒やジェル式の固定用具を使いましょう。什器同士を連結して床面積を増やすだけでも転倒の防止になります。また、重量物を棚の下に収納することや、キャスター付什器をベルトやアジャスターで固定しておくこともおすすめです。
地震が起こった際の什器の転倒は、ケガや避難経路の妨げになるなどの危険性があります。二次的被害を防ぐためにも、什器はしっかり固定しましょう。
■備蓄品の準備・確認
備蓄品は、オフィスの管理会社が準備しているケースがあります。対策の状況は管理会社により異なるため、自社でも準備しておくのが賢明です。
準備しておくと良いものの一例は次のとおりです。
・非常用電源と燃料(蓄電池など)
・通信回線や端末
・非常用照明
・空調機器(ストーブや扇風機など)
・帰宅困難者対策の備品(携帯トイレや簡易ベッド、マットなど)
■感染症対策
新型コロナウイルス感染症に限らず、災害時にはあらゆる感染症に注意しなければなりません。
災害時の感染症対策は、「飛沫感染」「空気感染」「接触感染」を防ぐことがポイントです。換気を行うことやマスク、消毒などの衛生対策を徹底することは簡単に取り入れられる対策であるため、日頃から習慣化しておくと良いでしょう。
また、二酸化炭素の濃度をモニタリングすることも効果的です。これにより、建物内の空気をクリーンに保ち適切な換気のタイミングを把握することができます。
■データのバックアップ
地震や災害の対策として、顧客情報や帳簿、契約書など、企業活動に必要不可欠なデータのバックアップを取ることは基本です。
ただし、同じ社内のサーバーでは、同時に破損や使用不可になってしまう危険性があります。バックアップデータは、クラウドや物理的に距離が離れた場所に保管しておくのが良いでしょう。
また、平常時からマニュアルの整備をしておくことも大切です。データの保存場所や運用方法を整備しておくことで、災害やトラブルが起こった際にも迅速な対応が可能になります。
■安否確認方法の策定
自然災害やテロが起こった場合、電話やメールなどが平常通りに使えるとは限りません。現在、災害時の安否確認に特化したシステムが多数ありますので、自社にあったシステムの導入も検討しましょう。
また、災害の規模によってはシステムが機能しない可能性もあるため、安否確認の方法は複数用意しておくと安心です。
■テレワークの導入
「テレワークがなぜ防災対策になるのか」と思われる方がいるかもしれません。テレワークは、単にオフィス以外の場所での仕事方法であるだけでなく、運用方法によっては「災害などによって出勤が困難になった場合でも、事業を継続する」ことを可能とする手段にもなります。
従業員がテレワークに慣れていれば、トラブルが起こっても全ての事業が停止しないため、ダメージを受けた機能や事業の早期復旧に繋がるのです。
■定期的な避難訓練の実施
避難訓練は、消防法によって定期的な実施が義務付けられているケースがあります。定期的な避難訓練は、訓練そのものに対する慣れや、訓練に対して受動的な参加姿勢を誘発してしまうこともありますが、本来の目的は有事の際に「冷静・的確に行動するための準備」です。
従業員が主体的に訓練に参加し、「自分は緊急時にこのように行動する」というイメージを持ち、真剣に取り組む必要があります。
まとめ
今回は、BCPを意識したオフィス選びや、社内で実施できるBCPに関して解説しました。
オフィス移転やこれからオフィスを構える方は、オフィスのレイアウトを検討する際や、管理会社との打合せの際にBCPの策定・運用を行いたい旨を伝え、実際に対応できる具体策を確認しましょう。
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