金融機関や政府機関、そして多くの大手企業が集積する大手町エリア。大規模なオフィスビルが建ち並び、広々とした歩道が整備され、昼夜を問わずビジネスパーソンが行き交う──。そんな、都会らしい洗練された空気が漂うビジネス街ですが、その歴史は古く、江戸時代まで遡ります。この記事では、大手町の歴史や、再開発情報、主要大型ビルの空室率や平均募集賃料についても詳しく解説します。是非ご一読ください。
大手町の歴史
現在の大手町は、大規模なオフィスビルが林立し、数多くの企業が集積する日本屈指のビジネス街ですが、江戸時代は大名屋敷が建ち並ぶ武家地でした。まずはこのエリアの歴史をご紹介します。
■江戸城を中心とした、大手町の歴史
江戸時代、日本の経済・政治の中心地は「江戸城」でした。現在、皇居となっている場所に築かれた「江戸城」の歴史は1457年(長禄元年)まで遡ります。太田資清、資長(道灌)親子が築城し、その後小田原北条氏の一支城となりましたが、この頃はそれほど大きな城ではありませんでした。1590年(天正18年)には徳川家康が入城し、その翌年に江戸城の修築が開始されます。1603年(慶長8年)に家康が征夷大将軍に任命され、江戸幕府が開かれた頃に、江戸城をさらに広げる大規模な修築の命が出されました。この修築工事は家康の存命中には完了せず、約30年後の1636年(寛永13年)になって、ようやく完成しました。
「大手町」という名前は、この江戸城に由来します。城の正面玄関を意味する「大手門」の前にある街であったことから、「大手町」と名付けられたと言われています。かつて、家康に命じられて江戸城の築城に従事した大名たちは、自分たちの宅地を得ようと日比谷入江を開拓して大名屋敷を建設したことから、江戸城の大手門前は譜代大名の屋敷が建ち並ぶ武家の街となりました。
■廃藩置県から官公庁街形成へ
明治時代に入ると、政府は中央集権体制の確立を目指して廃藩置県を行います。
廃藩置県に伴い大区小区制が始まり、東京府は6大区97小区に分けられましたが、廃止後は、郡区町村編制法によって東京の市街地は15区に編成されます。その際に、大手町は永田町・霞ヶ関・丸の内・皇居などと共に「麹町区」に編成されました。そして、大手町には内務省や大蔵省、文部省、大蔵省印刷局などが配置され、近代日本の中枢を担う官公庁街が誕生しました。
■戦後の経済成長と共に発展する大手町
戦後の1947年(昭和22年)には東京22区に再編されます。大手町のある麹町区は神田区と合併し、現在の千代田区が誕生しました。講和条約の成立によって占領が解除された昭和20年代後半から30年代の初めにかけて、大手町から霞ヶ関の一帯はビルの延面積の大幅拡張が行われ、高度経済成長時代の到来を象徴する中央官庁街が誕生します。
1952年(昭和27年)には大手町に各省庁の地方出先機関が合同庁舎内に集中的に配置され、1956年(昭和31年)には帝都高速度交通営団(営団地下鉄現在の東京メトロ)丸ノ内線「大手町」駅が誕生。さらに、老朽化した役所を取り壊した跡地に日本開発銀行や日本長期信用銀行、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞などの本社ビルが次々と建設され、日本を代表するオフィス街として大きく変貌を遂げました。
■【歴史コラム】将門伝説と大手町
高層ビルが建ち並び、多くのビジネスパーソンが行き交うオフィス街の中心地に、不思議な空気が漂うスポットがあるのをご存知でしょうか。東京都の指定旧跡にもなっている「将門塚」について、ご紹介します。
現在の大手町が歴史の舞台に初めて登場したのが、平安時代に活躍した武将・平将門にまつわる「将門伝説」だと言われています。平将門は朝廷から独立した国を作ろうと反乱を起こし、朝敵として討ち取られます。討ち取られた首は平安京でさらされますが、平将門の怨念によって首は故郷である東国に向かって飛んでいき、その途中でいくつかの土地に落ちたという伝説が残っています。その平将門の首が落ちた先の1つとして有名なのが大手町にある「将門塚(将門の首塚)」です。大手町で働くビジネスパーソンの「守り神」としても有名で、今でも訪れる人が絶えません。
大手町の特徴
数多くの企業がビジネス拠点として大手町を選ぶ理由について、解説します。
■ターミナル駅が近く、交通の利便性が高い
大手町は交通アクセスの利便性が圧倒的に高いエリアの1つです。最寄りの「大手町駅」は東京メトロ最大のターミナル駅とも言われており、4路線(丸ノ内線・千代田線・東西線・半蔵門線)が乗り入れている他、都営地下鉄三田線も利用することが可能です。さらに東京駅へも徒歩圏内のため、新幹線までのアクセスも容易で、遠方への営業や出張に便利な立地です。
その他にも、大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有地区)を結ぶ約1.2kmの丸の内仲通りや、地下歩行空間も整備されているため、回遊性が高く、ビジネスパーソンにとっても活動しやすいエリアとなっています。大手町の交通アクセスの良さは、ビジネスの拠点として大きなメリットといえるでしょう。
出典:国土地理院ウェブサイト
■エリア全体で、様々な防災対策が実施されている
東京都の調査によると、大丸有地区での大地震発生時の「建物倒壊危険度」と「地震火災危険度」はどちらも低く、総合危険度は最も低いランク1に分類されています。このエリアでは大規模な再開発が進められており、他のエリアと比べて建物密集度が低いこと、さらに耐震性の高い建物が多いため、建物が倒壊する危険性が低いためです。また、大丸有地区では建物の不燃化が進んでおり、町丁別の不燃化率および不燃領域率はほぼ100%です。大規模な延焼火災の危険性が少ないことから、災害時も広域的な避難を要せず、地区内に留まることが推奨される「地区内残留地区」にも指定されています。
加えて、エネルギーインフラの供給体制にも力を入れています。停電時でもビルの安全性を確保するための非常用発電機が設置された最新鋭のオフィスビルが多く、さらに大丸有地区全体を包括する地域冷暖房システム(DHC)による給湯や冷暖房の供給体制も整っており、被災時にも安心・安全に過ごせる「災害に強いまちづくり」が進められています。
さらに、エリア防災の取り組みとして、災害時の情報共有や避難者・帰宅困難者向けの情報の収集・発信を行う「災害ダッシュボードBeta+(ベータプラス)」の実装実験を実施。これは、三菱地所株式会社と千代田区による公民連携の取り組みで、帰宅困難者向けの情報提供の充実化を図れる他、災害対策機関同士の情報連携を強化することで、災害時により効率的な対策を行うことが可能になります。
大手町エリアでは、これらの様々な防災関連対策が整備されているため、多くの企業が安心して拠点を構えることができます。
参考:内閣府防災情報/大手町・丸の内・有楽町地区における防災まちづくりの特徴
■ビジネスパーソンにとって、理想的な環境が整っているエリア
大手町を含む、大丸有地区は世界でも有数の国際ビジネスセンターとして国内外のトップ企業が集積しており、日本の経済活動の中心地となっています。一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会の2021年時点での調査によると、大手町エリアおよび大丸有地区の事業所数・従業員数は下記の通りです。
また、Fortune Global 500(※)にランクインしている企業の内、19社が大丸有地区に拠点を構えています。また、上場企業(プライム・スタンダード市場)の内、118社が大丸有地区に集積している他、外国金融機関の事業所数も70箇所を超えており、日本最大の国際金融センターとしての一面も持ち合わせています。
(※アメリカの経済雑誌であるFortuneが毎年発表しているランキング。世界の上位500社の大企業をリストアップし、売上高に基づいて順位付けしている。)
参考:三菱地所株式会社 オフィス情報/東京・丸の内エリアの魅力
さらに、大丸有地区ではシェアオフィスやレンタルオフィス、イノベーション施設など新しいビジネス拠点が増加しており、多種多様な企業の移転・集積が進んでいます。特に、三菱地所株式会社は現在、大丸有地区全体でイノベーション創出を促進する取り組み「OPEN INNOVATION FIELD」を推進しています。国内外のスタートアップ企業を対象としたプラットフォームの運営・コミュニティ形成に積極的に取り組んでおり、大手町エリアにも下記のような施設が設置されています。
・FINOLAB(大手町ビル)~日本の金融の中心で世界最高の金融イノベーションを~
日本初のFinTech(※)拠点として開設されました。FinTechを軸とした異業種との共創を通じて、エコシステムの形成や新規ビジネスの創出を目指す会員制のコミュニティ&スペースです。
(※金融:Finance と技術:Technology を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指す。)
・Inspired.Lab(大手町ビル)~最先端テクノロジー企業が集い新事業が生まれる場へ~
スタートアップ企業向けのコミュニティオフィスです。イノベーションを志す人や企業が集い、ビジネス交流や多様なワークショップが行われています。
・Global Business Hub Tokyo(大手町フィナンシャルシティグランキューブ)~幅広い働き方を可能にするフレキシブルオフィス~
日本最大規模の海外成長企業・国内先端ベンチャー企業向けのビジネス支援施設です。オフィスやイベントスペース、会議室などが設置されており、イベントを通じたビジネスマッチングなどを促進しています。
さらに、大手町エリアを含む大丸有エリアでは街の魅力と利便性を高める取り組みとして、大規模なイベントにも対応できるカンファレンス施設や、仕事と育児の両立を支援する保育所、そしてビジネスパーソンの健康面をサポートするフィットネス施設なども揃えています。
大手町エリア(丸の内・有楽町・内幸町周辺含む)の空室率・平均募集賃料
■空室率
2024年8月の主要大型ビルの空室率は2.82%でした。このエリアは空室率が安定しており、2~3%台を推移しています。
■平均募集賃料
2024年8月の主要大型ビルの平均募集賃料は44,705円/坪でした。空室率同様、平均募集賃料にも大きな変化があまり無いエリアで、43,000円/坪台前後で推移しています。
大手町周辺の開発情報
日本有数のビジネス街として日本経済の中枢的役割を担っている大手町ですが、平成10年頃には建物の老朽化が見られるようになりました。建物の老朽化により、グローバル化や高度情報化への対応の遅れが懸念される一方で、建替えによる企業の事業活動の中断が大きな課題となっていました。
そこで考案されたのが「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」です。このプロジェクトでは老朽化した建物を換地しながら建替え用地を次々と確保することで、事業活動を中断・停止せずに地区内での新たな建替えを可能としています。
「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」は平成15年に国の都市再生プロジェクトとして決定され、現在は連鎖型再開発の完了期となる「第4次再開発」まで進行しています。
・第1次再開発 【大手町カンファレンスセンター】
国際ビジネス拠点として必要な機能の提供というプロジェクトの基本方針に従い、カンファレンスセンターなどの設置を行いました。この街区には「日経ビル」「JAビル」「経団連会館」が所在しており、それぞれのビルに大規模なカンファレンス施設が併設されています。その他、4階屋上には里山の風景が再現された空中庭園が整備され、ビジネスパーソンの憩いの場となっています。
・第2次再開発 【大手町フィナンシャルシティ】
国際金融人財の育成に資する「東京金融ビレッジ」、大規模な国際会議にも対応可能な全10室のカンファレンスセンター、英語対応可能な医療サービスを提供する「聖路加メディローカス」など、グローバルビジネスの戦略拠点にふさわしい機能を併設した2棟の超高層オフィスビル(ノースタワー、サウスタワー)が2012年(平成24年)に竣工しました。日本橋川沿いの緑化整備の一環として、環境情報の発信・啓発を目的とした「エコミュージアム」を設置し、水と緑が連続する、潤いのある景観形成にも寄与しています。
地下1階は東京メトロ丸ノ内線「大手町」駅に直結しており、東京サンケイビルとの地下接続通路により千代田線・半蔵門線・東西線・都営地下鉄三田線「大手町」駅にも接続しています。地上・地下の歩行者ネットワークを整備することで、丸の内・有楽町エリアの軸である「丸の内仲通り」の機能を延伸し、日本橋川まで繋がる広い範囲で賑わいと回遊性のある都市空間を形成しています。
プロジェクトが目指すまちづくりの基本方針は、下記の4つです。
・国際金融、情報通信、メディア産業などの集積を活かし、グローバルビジネスの戦略拠点として再構築する
・大街区による緑豊かな一体的都市空間の創造およびアメニティの確保
・神田、日本橋など隣接地区との有機的連携
・公民連携のまちづくり
この基本方針に従って、様々な再開発計画が進められています。連鎖型都市再生プロジェクトの具体的な手法については上記画像の通りですが、ここでは各開発で竣工したオフィスビルや街区について解説します。
画像引用:UR都市機構/大手町連鎖型都市再生プロジェクト
・第3次再開発 【大手町フィナンシャルシティ グランキューブ】
大手町フィナンシャルシティ(第2次再開発)と同じ街区で、2016年4月に竣工したのが「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」です。このオフィスビルの一番の特徴は「高度な防災対策」と言えるでしょう。計画立案の途中で東日本大震災が発生したという経緯もあり、防災対策に関しては徹底的に見直しが行われました。その結果、最重要ライフラインである電気と水に関して、ビル内で自立できる設備が設置されました。災害時に電力会社からの供給が止まっても、ビル独自で電力を供給することが可能で、さらに断水時にも高度ろ過設備により、地下水脈を利用した井戸水から飲料水の確保・供給ができます。
その他、宿泊施設等には星野リゾートの最高級ブランド「星のや東京」が出店。訪日外国人に対する、日本ならではの魅力発信に寄与しています。また、「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」では温泉も湧出しており「大手町温泉」として親しまれています。この温泉は、地下1階のフィットネス施設「SPA大手町 FITNESS CLUB」や、「星のや東京」で楽しめるほか、災害時には災害活動要員向けに開放される予定で、災害時の衛生環境向上を図ります。
・第4次再開発 【TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)】
東京駅日本橋口前の街区で進められている第4次となる再開発が「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」です。このプロジェクトは2007年頃から構想が始まり、10年超の期間に亘る開発を経て、2027年度に竣工予定です。
「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」が位置する常盤橋地区は、当初は「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」の事業区域としては計画されていませんでした。元々5棟のオフィスビル、東京都下水道局のポンプ場、東京電力の変電所からなる土地で、首都高八重洲線やJR・東京メトロの線路にも囲まれており、複雑な構造・権利関係から再整備は困難とされていましたが、東京都・千代田区・関係地権者等が検討を重ねた結果、「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」のスキームを活用して再開発を行うことが決定します。これにより、常盤橋地区内の段階的な建替えが可能になり、都心を支える広域的な重要インフラを機能停止することなく再編することが可能になりました。
街区内には4棟のビルが建設され、2021年6月に「常盤橋タワー」が、2022年3月に「銭瓶町ビルディング」が竣工。そして、2028年3月には「Torch Tower」「変電所棟」が竣工する予定で、これをもって長期に亘る段階開発の集大成となります。「Torch Tower」は日本一の高さ(約390m)を誇るビルとなる予定で、圧倒的なスケールとシンボル性で日本の玄関口、東京駅前に登場します。
「日本を明るく、元気にする」というプロジェクトビジョンに基づいてまちづくりが推進されており、地方自治体などと連携しながら地域の魅力を世界へ発信する取り組みも行われています。例えば、錦鯉発祥の地として知られる新潟県小千谷市と協働で、常盤橋タワー沿いの親水空間内に「錦鯉が泳ぐ池」を設置する取り組みは、都心の中の緑化空間として訪れる人々に癒しを届けるだけでなく、海外でも人気の高い錦鯉の飼育セミナーや即売会なども企画される等、日本の魅力発信にも寄与しています。その他、街区の中心に形成される予定の約7,000㎡の大規模な広場「TOKYO TORCH Park」(一部先行整備済み)に日本有数の芝の生産地である茨城県つくば市の天然芝を敷設するなどの取り組みも行われています。
敷地面積3.1haにも及ぶ新しい街、「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」は、日本中の地域と東京を繋ぐ架け橋となり、全世界に向けて日本の魅力を発信する新たなシンボルとなるでしょう。
■今後の大手町の再開発事情
・大手町ゲートビルディング(2026年1月竣工予定)
大手町エリアと神田エリアの結節点に誕生する新たなオフィスビルが「大手町ゲートビルディング」です。このプロジェクトでは、日本橋川に新たに人道橋を架橋し、大丸有地区から繋がる「丸の内仲通り」「大手町仲通り」の機能を延伸します。人道橋の先には約1,000㎡の広場が整備され、神田エリアと大手町エリアの新たな交流や賑わいを創出します。オフィスビルを建築するだけではなく、隣接する日本橋川沿いに新たに「防災船着場」を整備したり、大手町エリアから「地域冷暖房施設(DHC)」を延伸することでエリア全体のエネルギーネットワークの拡大・環境負荷低減に寄与する等、様々な新しい取り組みが行われているプロジェクトです。
大手町エリアで賃貸オフィスをお探しなら
大手町は、圧倒的な交通アクセスの利便性を誇り、最先端のオフィスビルが建ち並ぶ世界有数のビジネスセンターです。丸の内・有楽町、さらには日本橋川を越えて神田エリアまで歩行者ネットワークが繋がり、今後さらなるビジネスの発展が期待される魅力的なエリアとも言えるでしょう。
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