天王洲アイル・品川シーサイドエリアは、江戸時代からの長い歴史を背景に、再開発を通じて大きな変革を遂げた地域です。かつては物流倉庫が建ち並ぶ工業地帯でしたが、現在では再開発が進み、オフィスビルや高層マンションが林立する都会的なエリアへと発展しました。天王洲アイル駅・品川シーサイド駅が開業したことにより、交通アクセスの利便性が向上し、多くの企業が進出しました。また、商業施設や公園も整備されており、住環境の質が向上したことにより、子育て世代にとっても住みやすいエリアとなっています。本記事では、このエリアの歴史からオフィスエリアとしての特徴まで、詳しく解説します。
天王洲アイル・品川シーサイドエリアの歴史
両エリアは比較的新しいエリアという印象が強いですが、実はその歴史は江戸時代まで遡ります。かつては、物流拠点としての役割を担っていました。それぞれのエリアの発展の歴史をご紹介します。
■天王洲アイルの歴史
「天王洲アイル」という名称は、1992年(平成4年)の再開発プロジェクトに伴って決定されました。それまでは、このエリアは一般的に「天王洲地区」と呼ばれていました。「天王洲」という名称は、史料によって諸説ありますが室町時代または江戸時代中期(宝暦元年)に海中から引き上げられた牛頭天王(ごずてんのう)の面に由来しています。この面が海中から見つかったことがきっかけで、地域の守護神として祀られるようになり、その神社が「天王洲神社」として知られるようになりました。天王洲という地名は、この神社に由来しているとも言われています。
「アイル(Isle)」は、英語で「島」を意味する言葉です。これは、この地域が埋め立てによって形成された人工島であることを示しています。再開発によって新しい都市空間が生まれたことを象徴するために、海外で一般的に使われる「アイランド」から「アイル」という言葉が採用されました。元々このエリアは、海中に堆積した土砂によって自然に形成されました。その後、昭和初期から中期にかけて埋め立てが進められ、現在の形となったのです。
江戸時代

江戸時代の末期、1853年にペリー提督率いる黒船が来航し、日本に開国を迫りました。この出来事をきっかけに、幕府は海防強化の必要性を痛感し、江戸湾の防衛体制を強化するために台場(砲台)を建設することを決定しました。天王洲アイルは、その防衛計画の一環として第四台場として整備されました。しかし、台場の建設には多大な費用と労力が必要で、幕府はその調達に苦労しました。第四台場は、他の台場と同様に築造を進めていましたが、資金不足や技術的な困難により、完成することはありませんでした。防衛施設としては活躍しなかった一方で、江戸の出入口として機能し、物流と商業の拠点となったことで地域全体の繁栄を支えていました。近隣の品川湊は物流や物資の集散地として活用され、東海道第一の宿場町「品川宿」は旅人や商人で賑わいを見せました。
画像:国立国会図書館/「錦絵でたのしむ江戸の名所」
明治時代
明治時代に入ると、天王洲周辺は工業地域としての性格を強め、造船所や工場が次々に建てられました。大型船舶の建造が行われ、地域経済に大きく寄与する場所となりました。さらに、大正時代以降は埋立地としての開発が本格化し、倉庫や工場用地が拡大。この時期には国内外の貿易・物流の中心地として発展し、東京湾岸エリア全体を支える役割を担っていました。交通面では1904年(明治37年)に京急線(当時の京浜電気鉄道)が開通し、東京と横浜を結ぶ重要な交通拠点となります。これにより、物流の効率化だけでなく、地域の経済活動や人口増加にも大きく貢献しました。
1980年代以降の再開発
1985年、天王洲の再開発を目的として「天王洲総合開発協議会」が発足。倉庫街として利用されていた天王洲は、オフィスビルや高層マンション、商業施設が集まるエリアへと変化します。『アートになる島、ハートのある街』というテーマのもと、都市と文化が融合する新しい街づくりが進められました。ギャラリーやアートスペースの設置、アートイベントの開催などを通じて、地域全体がアートと文化に彩られるようになりました。これにより、ビジネスエリアとしての機能に加え、文化発信拠点としての機能も備えることになります。
1980年代から1990年代にかけては、交通インフラの整備も進みました。東京モノレールの天王洲アイル駅が開業したことにより、羽田空港や都心部へのアクセスが大幅に向上しました。また、1992年には東京臨海高速鉄道りんかい線の天王洲アイル駅が開業し、さらに交通の利便性が高まりました。
現代
2010年代に入り、天王洲アイルはアートの街として急速に発展しました。寺田倉庫が中心となり、国内最大級のギャラリーが集積するアート複合施設の設置、現代アートミュージアムのオープンなど、アートに関する多様な活動が次々と展開されました。さらに、作家のための制作場所の提供や、様々なワークショップの開催などで賑わいを見せる天王洲アイルは、クリエイティブな都市空間として注目を浴びるようになりました。
■品川シーサイドの歴史
品川シーサイドエリアは、東京臨海高速鉄道りんかい線の品川シーサイド駅の開業にあわせて再開発事業が行われました。日本たばこ工場の跡地を中心として開発が行われ、都市基盤の整備と共に、複合市街地が形成されました。
2000年代の品川シーサイド
1990年代後半からスタートした日本たばこ産業の工場跡地を中心とした再開発計画は、2002年に第一期の竣工を迎えました。その後2005年には全体が完成し、「品川シーサイドフォレスト」がオープンしました。広大な敷地の中にオフィスビルや商業施設、レストラン、カフェ、ホテル、そして住宅が建ち並び、地域全体が活気に満ちた新しい都市空間へと生まれ変わりました。このエリアは「杜のみどりの中の街」というコンセプトのもと、自然環境と都市機能の調和を重視して整備されました。オフィスビルと住宅が共存し、働く場所と住む場所が一体化した利便性の高いエリアとして成長しました。多様な商業施設や緑地も整備され、幅広い年代の利用者にとって魅力的な場所となっています。
現代
品川シーサイドエリアでは、企業の進出が進んでいます。2015年にはビッグローブ株式会社が品川シーサイドパークタワーに本社を移転しました。この移転がきっかけでビジネスエリアとして注目されるようになり、多くの企業がこのエリアに拠点を構えるようになりました。
また、ビジネスだけでなく住環境の整備も進んでいます。2026年には「リビオタワー品川」や「ブランズシティ品川ルネキャナル」などの新築マンションの竣工が予定されており、ファミリー層や単身者にとっても魅力的な住まいが提供される予定です。これに加え、新しい商業施設や公共スペースの整備も進められ、地域全体の利便性が一層向上する見込みです。
品川シーサイドエリアは、ビジネスと住環境の両面で発展しているエリアです。大手企業の進出によりビジネスハブとしての地位を強化するとともに、新しい住宅や商業施設の整備により、生活の質も向上しています。交通アクセスの利便性も高まり、多様なニーズに応える都市空間として、今後さらに成長が期待される地域と言えるでしょう。
天王洲アイル・品川シーサイドエリアのアクセス

品川シーサイド駅・天王洲アイル駅はりんかい線(東京臨海高速鉄道株式会社)が利用可能です。りんかい線は、新木場から大崎までを結ぶ鉄道で、大崎からはJR埼京線と相互直通運転を実施しています。そのため、品川シーサイド駅から新宿まで約17分と、ビジネスにも便利な環境が整っています。各駅の2023年度の一日の平均乗降者数は下記の通りです。
品川シーサイド駅:16,922人
天王洲アイル駅:14,895人
これらのデータからも、品川シーサイド駅と天王洲アイル駅がビジネスパーソンにとって重要な交通拠点であることがわかります。品川シーサイド駅は、新宿や渋谷へのアクセスの良さから利用者が多く、天王洲アイル駅もオフィスや商業施設の充実が利用者数を支えています。両駅とも交通の便が良く、生活環境やビジネス環境が整っているため、今後も発展が期待されます。
参考:東京臨海高速鉄道株式会社ホームページ /国土地理院 電子国土基本図(地図情報)
天王洲アイル・品川シーサイドエリアの特徴
天王洲アイルと品川シーサイドエリアは、東京湾岸地域のウォーターフロントエリアとして再開発が進み、ビジネスや住環境が調和した都市空間が広がっています。ここでは、それぞれのエリアの特徴を紹介します。
■天王洲アイルの特徴
天王洲アイルは「アート」の拠点として知られています。このエリアには多くのギャラリーやアートスペースが点在し、常にクリエイティブなエネルギーが溢れています。また、近年はスタートアップ企業が集まる地としても知られています。
スタートアップ支援
天王洲アイルは、「人間の知性と創造性に働きかける環境づくり」をテーマに街づくりが進められています。そのなかで、寺田倉庫は「天王洲にスタートアップ、ベンチャーを誘致し水辺とアートの街をビジネスイノベーション拠点とするプロジェクト」である「Isle of Creation TENNOZ」 を開始。スタートアップやクリエイターを誘致しウォーターフロントとしての地位を確立することを目指しています。
さらに、倉庫空間をリノベーションした施設「Creation Camp TENNOZ」を設立しました。「Creation Camp TENNOZ」はスタートアップ企業や新規起業者の成長を支援するインキュベーション施設です。創業期の小規模チーム(2〜5名)が2年間集中して事業化に取り組む環境を提供しており、この施設では、経済合理性だけでは測れないビジョンを持つ起業家をサポートし、社会性と経済性を両立した事業づくりを推進します。
支援内容には、事業資産を活用したプロダクト開発や仮説検証、メンターのアドバイス、定期的なイベント、そして1社あたり1,000万円の出資が含まれます。年間最大10社のスタートアップ起業が入居可能で、選考は書類選考、面接、プレゼンピッチを経て行われます。2024年には、1期生としてスタートアップ起業9社がサポートを受けることになりました。天王洲というアートと水辺の街で、スタートアップ企業やベンチャー企業が創造的な活動に集中できる環境を提供しています。
文化施設
天王洲アイルには、多くのエンターテイメント施設があり、その代表的な施設の一つが天王洲銀河劇場です。この劇場では、ミュージカル、演劇、コンサートなど、多彩なジャンルの公演が年間を通じて行われており、訪れる観客を楽しませています。劇場に加えてアートギャラリーやイベントスペースも充実しており、常にクリエイティブなエネルギーが溢れる街です。エリア内では、国内外のアーティストによる展覧会やパフォーマンスが頻繁に開催され、訪れる人々に新しい文化や芸術体験を提供しています。
周辺環境
天王洲アイルの運河沿いにはおしゃれなカフェやレストランが建ち並び、特にランチタイムには多くのビジネスマンや地元の住民が足を運びます。さらに、天王洲運河沿いを囲むようにボードウォーク(散策路)が設置されており、水辺の風景を楽しみながら歩くことができます。また、緑豊かな公園も点在しており、自然と触れ合うひと時を過ごすことができます。エリア内にはギャラリーや現代アート作品が多数展示されており、文化的な雰囲気が漂います。仕事帰りや休日の楽しみの場としても活用されています。
■品川シーサイドの特徴
品川シーサイドはその名の通り、シーサイド(海辺)の立地を活かした美しい景観が特徴です。ビジネスと住環境が調和した都市開発が進められており、「未来志向のライフスタイル」をコンセプトに街づくりが行われています。
周辺環境
海風が心地よいこのエリアには、広々とした公園や緑地が整備されており、住民や働く人々がリラックスできる環境が整っています。ウォーターフロントの魅力を最大限に活かした街づくりが行われており、散策やジョギングを楽しむ人々で賑わっています。
エリア内には商業施設や飲食店が充実しており、高層マンションも建ち並んでいます。一方で、大型のオフィスビルやビジネス関連施設も多く立地しており、ビジネスハブとしての機能も兼ね備えています。品川シーサイドでは、「ワーク・ライフ・バランス」を重視した街づくりが進められており、職住近接のライフスタイルを実現できる環境が整えられています。これにより、通勤時間が短縮され、仕事とプライベートのバランスが取りやすくなっています。
また、品川シーサイドを含む品川区では近年他エリアからの転入が増えています。再開発によって高層マンションが建設され、子育て世代やファミリー層の流入が進んでいることも影響しているでしょう。
今後の再開発について
品川シーサイドエリアでは、近年進められていた再開発が一旦落ち着き、現在は整備された街並みが広がっています。一方、近隣の天王洲アイルエリアでは、新たなタワーマンションの再開発計画が進行中であり、さらなる発展が期待されています。
■天王洲アイルエリアの開発計画
超高層レジデンスの建設
天王洲アイル駅西側の「旧内山コンクリート」跡地に地上34階建て、高さ約124.9mのタワーマンション「パークタワー品川天王洲」が建設される予定です。着工は2024年1月31日、完成は2027年8月下旬、入居開始は2027年9月下旬を予定しています。新たな住宅供給により、エリアの居住環境が一層充実する見込みです。周辺商業施設の需要増加が期待され、地域経済の活性化にも寄与すると考えられます。
旧大井火力発電所跡地の再開発
老朽化により稼働を停止した旧大井火力発電所跡地について、品川区は今度の動向を注視するとともに必要に応じて関係機関と協議を進める方針を示しています。旧発電所跡地が再開発によって活用される場合、地域の活性化や新たなビジネス拠点の創出がなされ、特に物流業や製造業、さらにはIT関連企業など、多様な業種にメリットをもたらすことが期待されています。
羽田空港アクセス線(仮称)の計画
2023年4月4日、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、「羽田空港アクセス線(仮称)」の本格的な工事に着手することを発表しました。この計画は、既存の鉄道ネットワークを活用し、多方面からの羽田空港へのダイレクトアクセスを実現するもので、「東山手ルート」と「アクセス新線」に分かれています。
2031年度の開業を目指しており、開業後は東京駅から羽田空港までの所要時間が約30分から約18分に短縮される見込みです。現在の計画では、新橋駅から羽田空港新駅まで無停車となる予定ですが、品川区は2029年度までの長期基本計画に、羽田空港アクセス線新駅の設置を目指すことを明記しており、天王洲アイルを新駅誘致の候補地としています。新駅ができれば、羽田空港までのアクセスがより容易となり、天王洲アイルのオフィス街としての価値も更に向上することでしょう。
今後も進化が続く天王洲アイル・品川シーサイドエリアの魅力
天王洲アイル・品川シーサイドエリアは、再開発を通じてビジネスと文化が融合したエリアへと進化しています。この地域では交通アクセスや周辺環境が整備され、オフィス空間の質も向上しているのが特徴です。特に羽田空港アクセス線の新駅設置が実現すれば、移動の利便性がさらに高まり、国内外の企業にとっても魅力的なロケーションとなるでしょう。これから賃貸オフィスを検討される企業にとって、利便性と快適さを兼ね備えたこのエリアは、候補地としてぜひ注目したいエリアです。
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