コロナ禍における感染対策として、建物内の「換気」は特に重要な要素として注目されるようになりました。換気を行う際には「窓を開ける」などの方法が考えられますが、窓を開けることが出来ない大規模オフィスビルでは、どのような換気方法が採用されているのでしょうか。本記事ではオフィスビルの換気量や、換気方法に関する知識などをご紹介します。
オフィスビルにおける「換気」の重要性
人が密集しやすいオフィスビルではインフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染リスクが高まることから、定期的な換気が必要です。換気を怠ると、二酸化炭素がオフィスビル内に充満し、酸素濃度の低下によって頭痛やめまいなどの健康被害が発生する場合もあります。安全で快適な空気環境を確保するには、定期的な換気設備の点検や空気環境の測定などが必要です。
オフィスビルの換気方法とは
オフィスビルの換気方法は主に「自然換気」と「機械換気」の2つです。それぞれの換気方法の特徴や違いについて解説します。
■自然換気の特徴
自然換気とは、ドアや窓を開けて空気を入れ替える方法です。空気の流れを利用する風力換気と室内外の温度差を利用する温度差換気の2種類があり、シンプルで電気代もかからない換気方法です。
効率的に自然換気を行うためには、ドアや窓を室内の対角線上に設置し、給気と排気の流れを作ります。ただ、幹線道路沿いのオフィスなどでは窓を開けてしまうと騒音で業務に集中できなくなる可能性がある他、虫などが入ってくることもあります。また、季節や天候、風向きによって換気がうまくいかない場合もあります。
■機械換気の特徴
機械換気は、換気扇や扇風機など機械式の換気設備を使って室内の空気を入れ替える方法です。機械換気の方法には「第1種換気」「第2種換気」「第3種換気」があり、多くのオフィスでは第1種換気が採用されています。
第1種換気は、給気・排気の両方を機械で行う方法です。機械によって給気と排気のバランスを調整できるため、室内の温度・湿度を快適に保つことができるというメリットがあります。ただし、導入コスト・ランニングコストは比較的高いというデメリットもあります。
第2種換気は給気を機械で行い、排気はドアや窓を開けて行う方法です。機械を使って外の空気を取り込み、室内の空気を外に押し出すことで、正圧状態(室内の空気の圧力が外の空気より高い状態のこと)を保つことができます。室内の圧力が高くなっているため、外部の汚れた空気が取り込まれてしまうことがありません。そのため、手術室やクリーンルームなどに採用されることが多い換気方法です。
第3種換気では給気をドアや窓を開けて行い、排気を機械換気で行います。給気・排気ともに機械で行う第1種換気に比べて、コストが抑えられるというメリットがあります。最も一般的な機械換気方法で、キッチンやトイレなど臭気・水蒸気を排出する必要がある場所に設置されることが多いです。一方で、給排気のバランスを一定に保つのが難しく、外気の影響も受けやすい点がデメリットです。
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「個別空調」「セントラル空調」の違い
オフィスビルの換気量について
ここからは、オフィス内の換気量についてどのような規定があるかをご紹介します。換気量の求め方は、部屋の種類や用途などにより異なります。
■建築基準法の換気量基準
建築基準法で定められた換気量基準は「一人あたり毎時20㎥」と定められています。これは、成人が座っている状態での二酸化炭素発生量を基準にしており、一般的なオフィスではこの換気量基準を用いて必要換気量を算出することが可能です。計算式は下記の通りです。
■建築物衛生法(ビル衛生管理法)の換気量基準
建築物衛生法(ビル衛生管理法)の規定では、特定建築物(延べ面積が3,000㎡以上の映画館、百貨店、事務所、ホテル、飲食店など)には「空気環境の調整」が維持管理義務の一つとして定められており、必要換気量は「一人あたり毎時30㎥」とされています。延床面積3,000㎡以上のオフィスビルの場合は、建築物衛生法(ビル管理法)の換気量基準を満たす必要があります。オフィスの必要換気量は下記の計算式で求められます。
この2つの基準の違いについてまとめると、下記の通りです。
例えば、延べ面積が5,000㎡のオフィスビルで、使用フロアの面積が1,000㎡、従業員が200名の場合の場合、必要換気量の計算式は下記の通りです。
30(㎥/h・人)×1,000(㎡) ÷(1,000÷200)(㎡)=6,000(㎥/h)
この必要換気量は具体的に言うと、1時間あたりに6,000㎥の空気の入れ替え(換気)が必要であることを意味します。この換気量を保つため、大規模オフィスビルでは、複数のエリアや階層において、各エリアの床面積や人数に応じた換気設備を設置し、セントラル空調システムや個別空調ユニットを使用して、適切な換気量を確保しています。
出典:厚生労働省ホームページ
空気環境測定について
空気環境測定とは、建物内の空気中の成分を測定し、健康かつ衛生的に過ごせる空気環境かどうかを確認する作業のことです。オフィスビルをはじめとした不特定多数の人が利用する一定規模以上の施設の所有者やオーナーには、空気環境測定の実施が建築物衛生法(ビル衛生管理法)で義務付けられています。あくまで建物の所有者やオーナーが行うべき取り組みで、建物の利用者やテナントには空気環境測定を行う義務はありません。
空気環境測定は、専門資格を持つ空気環境測定実施者に依頼して行います。空気環境測定を実施しなかったり、定められている基準を満たしていない場合は、行政措置もしくは罰則の対象になります。
■測定対象の建物
延べ床面積3,000㎡以上(学校教育法第1条に規定する学校については8,000㎡以上)の特定建築物は空気環境測定が義務付けられています。特定建築物には、事務所の他、百貨店や興行場、遊技場、図書館、店舗などの不特定多数の人々が利用する建物が該当します。
■測定する項目と基準
空気環境測定で定められている検査項目は下記の通りです。
・浮遊粉塵
浮遊粉塵は、空中に浮遊している微小な粒子状の物質を指します。これが基準値を超えると、呼吸器系への影響・アレルギー反応などが引き起こされる可能性があります。
・一酸化炭素
高濃度の一酸化炭素にさらされると、酸素不足が起こり、頭痛・めまい・吐き気・意識障害などが現れることがあります。特に閉鎖空間や換気が不十分な場所で発生しやすいため、火災やガス器具の不完全燃焼、排気システムの不具合などによって発生することがあります。
・二酸化炭素
高濃度の二酸化炭素にさらされると、酸素不足が起こり、頭痛・めまい・吐き気・意識障害などが現れることがあります。会議室やオフィスなどの密閉された空間で、人の活動により二酸化炭素の濃度が上昇することがあります。
・温度
基準値を超えた場合、高温による熱中症などが発生するリスクが高まります。また、快適性が低下し、作業効率や集中力の低下が懸念されます。
・相対湿度
基準値を超えた場合、カビやダニの繁殖が促進される可能性があります。これにより、アレルギー反応が出たり、呼吸器症状が悪化することもあります。また、高温と高湿度の組み合わせは、体の冷却効果を妨げ、熱中症のリスクを高めることがあります。
・気流
エアコンの風が直接肌に当たるなど、不適切な気流がある場合に不快感が生じ、作業効率や集中力の低下が懸念されます。
・ホルムアルデヒド(※新築・増築・修繕後、初回のみ検査)
ホルムアルデヒドは、建築物内で発生する揮発性有機化合物(VOC)の一種であり、基準値を超えると呼吸器症状やアレルギー反応などを引き起こすことがあります。ホルムアルデヒドは合板や接着剤、塗料、カーペット、家具などの建築材料や製品から放散されることがあります。適切な換気、材料の選択、室内空気のモニタリング、室内環境の改善などが重要です。
項目ごとに定められている基準値は以下の通りです。(令和4年4月1日以降)
項目 | 基準値 |
浮遊粉塵の量 | 0.15 mg/㎥以下 |
一酸化炭素の含有率 | 100万分の6以下(=6 ppm以下) |
二酸化炭素の含有率 | 100万分の1000以下(=1000 ppm以下) |
温度 |
(1)18℃以上28℃以下 (2)居室における温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこと。 |
相対湿度 | 40%以上70%以下 |
気流 | 0.5 m/秒以下 |
ホルムアルデヒドの量 | 0.1 mg/㎥以下(=0.08 ppm以下) |
■測定方法と回数
空気環境測定は、特定建築物の通常の使用時間中に各階ごとに実施します。測定器の設置場所は居室の中央部の床上75cm以上~150cm以下の位置で、測定項目によって使用する測定器や測定回数が異なります。
ホルムアルデヒドを除く6項目の測定回数は2ヶ月以内ごとに1回です。また、浮遊粉塵、一酸化炭素、二酸化炭素の項目については、通常の使用時間中に測定します。(始業後から中間時に1回、中間時から始業前に1回の計2回)同じ測定点で測定し、平均値を基準値と照合して問題がないかを確認します。
空気環境測定の各項目で定められている測定器や測定回数は以下の通りです。
項目 | 測定器 | 測定回数 |
浮遊粉塵の量 | グラスファイバーろ紙(0.3マイクロメートルのステアリン酸粒子を99.9%以上捕集する性能を有するものに限る。)を装着して相対沈降径がおおむね10マイクロメートル以下の浮遊粉じんを重量法により測定する機器又は厚生労働大臣の登録を受けた者により当該機器を標準として較正された機器 | 2ヶ月以内ごとに1回 |
一酸化炭素の含有率 | 検知管方式による一酸化炭素検定器 | ― |
二酸化炭素の含有率 | 検知管方式による二酸化炭素検定器 | ― |
温度 | 0.5度目盛の温度計 | ― |
相対湿度 | 0.5度目盛の乾湿球湿度計 | ― |
気流 | 0.2メートル毎秒以上の気流を測定することができる風速計 | ― |
ホルムアルデヒドの量 | 2・4―ジニトロフェニルヒドラジン捕集―高速液体クロマトグラフ法により測定する機器、4―アミノ―3―ヒドラジノ―5―メルカプト―1・2・4―トリアゾール法により測定する機器又は厚生労働大臣が別に指定する測定器 | 新築、増築、大規模の修繕又は大規模の模様替えを完了し、その使用を開始した時点から直近の6月1日から9月30日までの間に1回 |
※浮遊粉塵の量、一酸化炭素および二酸化炭素の含有率は、1日の使用時間中の平均値をもって基準と比較する。
出典:厚生労働省/建築物環境衛生管理基準について
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