ESG経営への対応は、もはや一部のトップ企業だけの先進的な取り組みではありません。2027年3月期より適用が開始されるSSBJ基準(Sustainability Standards Board of Japan:日本サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定したサステナビリティ開示基準)などの動向を受け、サプライチェーンの中核を担う中〜大企業に対しても、取引先からのScope3(サプライチェーン全体の間接排出量)削減要請やデータ開示の要求は年々強まっています。一方「何から取り組めばよいのかわからない」という課題を抱える企業は少なくありません。
本記事では、ESG経営の基礎から実務上のメリットを整理した上で、企業がすぐに着手できる現実的なアクションとして「オフィス環境の見直し」という観点に焦点を当てて解説しています。ESGへの取り組みは事業戦略・調達・人事など多岐にわたりますが、経営層・総務担当者が意思決定に使える視点として、オフィスという切り口から整理していきます。自社だけでは見えにくい論点を把握した上で、次のアクションを検討するための参考としてご活用ください。
ESG経営とは?企業に求められる背景
「ESG」という言葉を耳にする機会は増えましたが「SDGsとどう違うのか」「うちには関係ない話では」と感じている経営者・担当者は少なくありません。しかしすでにESGは「大企業の広報施策」の次元を超え、銀行融資の審査条件や大手取引先の仕入先評価に直結する経営課題になっています。
ESGの定義と、CSR・SDGsとの決定的な違い
ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の3軸で企業を評価する非財務指標のことです。混同されやすいCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は「やるかやらないか企業が選べる任意の社会貢献活動」であり、SDGs(持続可能な開発目標:2015年に国連が採択した17の国際目標)は政策目標の羅列にとどまります。
ESGが決定的に異なるのは、投資家・金融機関が企業を評価・選別するための実務的な判断軸として機能している点です。主要銀行はSLL(Sustainability-Linked Loan:あらかじめ設定したESG目標の達成度に応じて金利が変動する融資)の商品ラインナップを急拡大しており、ESG目標の未達が融資条件に影響する仕組みが実装され始めています。「SDGsバッジをつけるための話」ではなく、「銀行審査と取引先評価にかかわる話」として受け止める必要があります。
なぜ今、中〜大企業においてESG対応が急務なのか?
直近の制度変化として押さえておくべきは、2025年3月に確定したSSBJ基準です。
経緯を整理すると、2022年4月の東証市場再編に伴いプライム上場企業にはTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示が求められるようになりました。さらに2023年3月期からは企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書でのサステナビリティ情報記載が義務化されましたが、Scope3の開示はこの時点ではまだ任意扱いでした。
その後、金融庁と連携しながらSSBJが国際基準(ISSB基準)をベースにした日本独自のSSBJ基準の策定を進め、2025年3月にSSBJ基準が確定。2027年3月期から適用が開始され、大手上場企業にとってサプライチェーン全体を含む排出量の開示は、避けて通れない実務課題として法的枠組みに組み込まれることになりました。
この流れを受けて、大手製造業等では取引先に対するCSR調達ガイドラインの運用を厳格化する動きが加速しています。サプライチェーンの中核を担う中〜大企業に対し、Scope3削減への取り組み姿勢や排出量データの提出を求めるケースが増えており、対応の遅れが取引評価に影響するリスクは実態として高まっています。
こうした状況で「環境認証ビルへの入居」が実務上の意味を持つのは、大手デベロッパーが管理する認証ビルではビルオーナー側がエネルギー使用量やCO2排出量等のデータを入居企業に開示するケースが増えており、そのデータをScope3報告のエビデンスとして活用できる点にあります。
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ESG経営を推進しない場合、企業にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。現在、事業を取り巻く環境は大きく変化しており、ESGへの対応遅れが取引機会の喪失や採用競争力の低下に直結する状況に突入しています。具体的に企業が直面している「3つの外的要因」を整理します。
- 大手取引先からの「サプライチェーン排出量(Scope3)」削減要請
- 「SDGsネイティブ(Z世代)」の台頭による採用難リスク
- 炭素税や化石燃料賦課金など将来のコスト増リスク
大手取引先からの「サプライチェーン排出量(Scope3)」削減要請
Scope3とは、自社のサプライチェーン全体にわたる間接的なGHG(温室効果ガス)排出量を指します。SSBJ基準の適用を受けた大手上場企業が取引先まで含めた排出量の開示を求められる以上、その取引先である中〜大企業にも「排出量データの提示」や「削減計画への協力」を求める動きが広がっています。
問題は測定・算定の実務ハードルです。「どのツールを使えばいいかわからない」「専門コンサルに依頼すると年間数百万円かかる」という壁に突き当たる企業は多いでしょう。こうした課題に対して、オフィス選びという観点から実務的な解決策の一つを示すことができます。環境省のGHG排出量算定・報告・公表制度に準拠した環境認証ビルでは、ビルオーナーが算定の根拠となるCO2排出量等のデータを開示するケースが増えており、入居企業の算定コストを大幅に抑えられる可能性があります。つまり、どのビルに入居するかという選択が、Scope3対応の実務コスト削減に直結するケースがあるということです。
移転・オフィス見直しを検討するタイミングであれば、こうした環境性能の視点を物件選定の判断軸の一つに加えることで、ESG対応を同時に進行させられるでしょう。
「SDGsネイティブ(Z世代)」の台頭による採用難リスク
採用市場での影響は、数字が明確に示しています。株式会社学情が2024年に実施したアンケートによると、学生の約7割が「企業がSDGsに取り組んでいることを知ると志望度が上がる」と回答しています。SDGsへの取り組みはESGの「S(社会)」「E(環境)」評価にも直結しており、Z世代が採用市場の主軸になる中、ESGへの姿勢が採用競争力に直接影響する構図は今後さらに強まるでしょう。
加えて、オフィス環境そのものが企業姿勢の可視化ツールになるという側面があります。会社説明会や職場見学の場で、オフィスの雰囲気・働き方設計が候補者の志望度に影響するケースもあり「働きたいと思える空間」への投資が、中長期的なリクルーティング施策の一つになり得ます。
炭素税や化石燃料賦課金など将来のコスト増リスク
日本では「地球温暖化対策のための税(炭素税)」がすでに導入されており、段階的な税率引き上げと新たな価格付け制度の設計が政策として検討されています。エネルギー多消費型のオフィス環境を維持し続けることは、将来的なランニングコスト増に直結するリスクを抱えることになるでしょう。
また、損保各社の企業向け火災保険などでも、ハザードマップで浸水が懸念されているエリアのビルに入居する場合、引受審査での割増やBCP(事業継続計画)書類の提出義務が発生するケースが増えており、ESG未対応が保険コストにも波及し始めています。
ここまでESG対応に関する3つの外的要因を挙げましたが、現実的な実務の観点から言えば、「これらの理由(ESG対応)だけでオフィス移転を決断する企業」はほぼいないというのが実態です。
実際には「人員増で手狭になった」「ビルの老朽化が気になる」「賃料コストを下げたい」といった、他の明確な経営課題が移転・見直しのきっかけとなります。
重要なのは、オフィスの見直しを検討するタイミングにおいて、ESG対応の視点も同時に組み込むことです。自社のオフィス課題を整理する際に、プロの視点を借りながら複数の軸(コスト・面積・働き方・ESGなど)で総合的に検討することで、見直しや移転の効果を最大限に引き出せる可能性が広がります。
ESG経営を推進することで得られる「実利」とは?
「ESG対応=コストのかかる理念的な取り組み」というイメージを持たれがちですが、実際には企業に明確なリターン(実利)をもたらします。具体的には、次のようなメリットが挙げられます。
光熱費などランニングコストの最適化
環境省のZEB(Net Zero Energy Building:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)実証事業では、ZEB Readyで建物のエネルギー消費量を基準比50%削減、ZEB達成で100%以上削減(実質ゼロ)という目標値が設定されており、国の制度に基づく公式の目安としてオフィス検討に活用できます。
坪単価や月額賃料は物件の規模・立地・築年数などによりますが、エネルギー消費量が基準比50%以下のオフィスと、旧来型の設備のままのオフィスでは、光熱費の構造的な差は無視できない水準になります。特に旧来型のビルでセントラル空調を採用していると、夜間・休日稼働時には一部のフロアや区画だけを冷やしたい場合でも、ビル全体を稼働させる必要があるケースがあります。その結果、使用実態に対して割高なコストが発生しやすくなるでしょう。高効率設備を備えた環境認証ビルでは、こうした非効率が設計段階から解消されているため、夜間・休日稼働が多い業種ほど、コスト差が年間単位で積み上がりやすくなります。
従業員エンゲージメントの向上と離職防止
中途採用1名あたりのコストについては、データによって幅があります。リクルート就職みらい研究所「就職白書2020」では、平均採用コスト103万円(2019年度)という数値が示されています。またマイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」によると、2024年の中途採用費用は1社あたり年間平均650.6万円、採用人数は年間平均20.8人で、単純計算すると1名あたり約31万円となります。
ただし業種・企業規模によって採用コストには大きな幅があり、特にIT・通信・インターネット業界では採用費用が1,000万円近くに達するケースも珍しくありません。いずれにせよ、1名の離職・再採用には相応のコストが発生することは、共通の前提として持っておいてよいでしょう。
オフィス環境の改善が離職率低下や採用力向上に寄与するかどうかは、企業・業種・規模によって異なります。ただし「働く環境への投資がエンゲージメントに影響する」という傾向は、複数の調査に一貫して示されています。
サステナブルファイナンス(ESG投資・融資)による資金調達の優位性
日本政策金融公庫の「脱炭素化促進資金」は、再生可能エネルギーの利用や温室効果ガス削減に取り組む事業者向けの低利融資制度です。環境省の「グリーンファイナンスポータル」でも活用可能な制度が整理されています。
環境認証ビルへの移転という選択が、こうした制度融資の申請における裏付けの一つになりうるケースがあります。ただし申請可否や優遇内容は個々の状況によって異なるため、具体的な申請手続きについては制度窓口への確認が必要です。
光熱費削減・採用コスト回避・融資優遇の可能性という複数のリターンを並べると、オフィス環境の見直しが「コストではなく投資」として経営層に提示できる材料になります。
「自社のオフィスにどんな課題があるか」を整理するところから始めたい場合、現状調査サービスの利用が選択肢の一つになります。立地・働く環境・面積・ビルスペックなど複数の軸から総合的に現状を可視化するサービスで、幅広いオフィス課題の洗い出しにご活用いただけます。
企業のESG対応、効果的な手段は「オフィス環境の見直し」
ESGへの対応を自社単独で進めようとすると、設備投資・専門知識・社内体制という3つの壁に突き当たります。しかしオフィスという「器」を変えることで、ESGへの対応を実現できる可能性があります。ここでは、自社の現状を把握し、次のアクションにつなげるために3つの壁について確認しましょう。
自社単独でビジネスモデルを「環境配慮型」に変えるハードルの高さ
3つの壁を具体的に整理すると、以下のとおりです。
- ①設備投資の原資がない:太陽光パネルの設置や高効率設備への入れ替えは、原状回復義務を負う賃貸オフィスでは事実上難しい状況です。専有部以外に太陽光パネルを設置することはオーナーの許可を取得することも難しく、建物の構造に手を加える投資は、退去時の原状回復コストとのバランスから回避されるケースがほとんどです。
- ②GHG算定の専門知識がない:排出量の算定・報告を外部専門コンサルに委託すると、年間で大きなコストが発生する場合があります。社内でゼロから体制を組むには人材も時間も必要になります。
- ③社内推進体制がつくれない:一部の中小企業では総務担当者の業務領域が広範であったり、経営者が総務領域の業務を兼務していたりというケースもあり、ESG専任担当を設置するリソースを確保しにくい状況があります。「担当を決めること自体が課題」という組織は少なくありません。
これらはいずれも「解決しにくい問題」であり、自社単独でのESG対応のハードルの高さがわかります。
「環境・人に配慮されたオフィス」の見直しで期待できる指標の改善
CASBEE(※1)のテナント向け評価では、建物性能そのもの(共用部の省エネ性能や再生可能エネルギー比率など)がスコアの大きな割合を占める設計になっています。つまり、CASBEE-Sランク取得ビルに入居することで、企業が内部で過度な個別施策を実施しなくても、環境負荷削減スコアの相当部分を確保することが可能です。
LEED(※2)やBELS(※3)についても同様に、建物側の省エネ・再生可能エネルギー対応が企業のESGスコアを底上げする仕組みになっています。大手デベロッパーが提供するグリーンリース(※4)では、電力使用量・CO2排出量・廃棄物量等のデータがオーナー側から開示されるため、Scope2(自社が購入した電力・熱に伴う間接排出量)の算定コストを大幅に抑えられる実態があります。
物件のCASBEE・BELS取得状況や、グリーンリース対応の可否はプロでなければ効率よく絞り込みにくいものです。希望立地・予算・認証要件を整理した上で専門家に相談することが、時間効率の面でも合理的な選択になります。
※1:Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency:建築環境総合性能評価システム
※2:Leadership in Energy and Environmental Design:米国グリーンビルディング協会が運営する国際的な建物環境認証制度
※3:Building-Housing Energy-efficiency Labeling System:国土交通省が推進する建築物省エネルギー性能表示制度
※4:グリーンリース(Green Lease):オーナーと入居企業が省エネ・環境負荷削減に共同で取り組むことを定めた賃貸借契約
ESG経営を加速させるオフィス選びのポイント①:環境(E)
環境認証ビルへの移転がESG対応として有効であることは前述の通りですが「どの認証が自社に合っているか」「実際に何を確認すればいいか」がわからなければ物件選定まで進めません。ここでは、オフィス選びにおける環境面のチェックポイントを、実務担当者が見落としやすい論点を中心に整理します。
環境認証(CASBEE、LEED、BELSなど)の取得状況
3つの認証は、評価主体・費用構造・更新頻度がそれぞれ異なります。
CASBEEは日本独自の評価システムで、第三者機関による審査費用はオーナー負担が原則です。入居企業の直接コストは基本的に発生しません。BELSも同様にビルオーナーが取得・維持する制度であり、企業側の費用負担はゼロです。LEEDは国際的な認証として信頼度が高い一方、企業が自ら「LEED for Commercial Interiors(CI)」を取得しようとする場合、内装工事費の5〜15%相当のコストが発生するケースが多くなっています。
認証取得状況の確認は、物件資料やオーナーが公開している情報で確認できる場合があります。環境配慮を重視する企業は、候補物件の比較検討段階で認証の有無や認証ランクを確認しておくとよいでしょう。
再生可能エネルギーの導入とZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)
ZEBのランクは、大規模ビル向けの「ZEB Oriented」から「ZEB Ready」「Nearly ZEB」、そして最高ランクの「ZEB」までの4段階で構成されています。ZEB Orientedでエネルギー消費量を基準比40%以上削減(事務所用途の場合)、ZEB Readyで50%以上削減、ZEB達成で100%以上削減が目標値として設定されています。この差は年間の光熱費コストに直結するだけでなく、ESGレポートに記載できるCO2削減量(t-CO2/年)の規模にも影響します。
候補ビルがどのZEBランクに対応しているかは、オーナーや仲介業者に確認するといいでしょう。なお、候補ビルにパンフレットやホームページがある場合、記載されていることが一般的です。
LED照明や高効率空調など「専有部」の省エネ性能
専有部(入居企業が使用するフロア内)の省エネ性能については、入居後に独自設備を導入しようとしても、B工事(ビルオーナーが指定する業者による専有部の内装・設備工事)の制約が障壁になる場合があります。B工事指定業者は市場競合がないため単価が相場より高くなりやすく、省エネ設備への投資回収が当初の想定より長くなるリスクがあります。
空調設備については、セントラル空調(ビル一括管理型)と個別空調(テナント個別制御型)で電気代の計上方法や運用の自由度が異なる場合があります。個別空調では一般的に使用電力量に応じた費用負担となりますが、セントラル空調では時間外使用(夜間・休日稼働)に対して別途費用が発生するケースがあります。そのため、通常営業時間外の稼働が多い業種では、入居後に想定以上の空調コストが発生する可能性があるため注意が必要です。ただし、セントラル空調でも個別空調と同様に従量課金型の課金体系を採用しているビルも存在するため、一概に判断せず個別に確認することが重要になります。
契約前の確認事項として、以下を押さえておくことをお勧めします。
- 認証種別(CASBEE・LEED・BELSの有無とランク)
- 空調方式(セントラル空調か個別空調か、時間外使用の課金体系)
- B工事対象範囲と概算費用
- グリーンリースの対応可否
図面やパンフレットには、空調方式や環境認証の種類など、基本的な設備情報が記載されている場合があります。一方、時間外空調の料金体系やB工事の対象範囲・費用負担、グリーンリースへの対応可否など、実際の運用条件やコストについては、資料だけでは把握できないことも多いため、その場合はオーナーや管理会社への個別確認が必要です。
また、確認した費用や工事条件が市場相場と比べて妥当かを判断するには、専門的な知識が求められます。物件選定や移転計画を進める際は、必要に応じてオフィス移転に詳しい専門家へ相談するとよいでしょう。
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ESGの「S(社会)」は、環境認証のように数値やランクで一目瞭然とはいかない分、チェック項目が多岐にわたります。従業員の健康・安全、多様な働き方への対応、情報セキュリティ体制まで、オフィス選びの段階で確認しておくべき論点を整理します。
従業員の健康と安全(ウェルビーイング、換気性能、レジリエンス性能)
「社会(S)」の評価軸で見落とされやすいのが、換気性能です。建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)では、執務室のCO2濃度を1,000ppm以下に維持することが義務づけられており、この基準を満たせない空調設備では法令違反となります。
換気性能が生産性に直結するという科学的根拠も存在します。ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院のAllen et al.(2016年)による査読論文(Environmental Health Perspectives 124巻6号)では、CO2濃度が約945ppm程度の環境では、換気性能の高い環境(Green+条件)と比較して認知機能スコアが15%低下することが実験で示されています。「換気性能=生産性」の関係は、感覚論ではなく査読論文レベルの根拠を持つ話です。
レジリエンス性能という観点では、ハザードマップで浸水が懸念されているエリアや耐震基準の低い旧耐震ビルへの入居が、BCPリスクとして経営上の問題になるケースも増えています。物件選定の際にハザードマップ・耐震性能・非常用電源の有無を確認するステップは、ESGの「S」評価として有効な根拠にもなります。
多様な働き方を支える空間(バリアフリー、ABW、育児・介護との両立)
バリアフリー設備・育児や介護との両立を可能にする設備(授乳室・キッズスペース等)については、物件仕様として確認する項目が多く、内覧時に見落としが生じやすい点に注意が必要です。
ABW(Activity-Based Working:活動内容に合わせて働く場所を自由に選ぶ働き方)は、固定席を撤廃することでスペース効率を上げながら従業員の自律性を高める手法として注目されています。ただし、導入に際してよく見られる失敗パターンとしては「社員が固定席撤廃に強い抵抗感を示したまま制度だけが先行し、結果として誰も活用しない空間が生まれる」というケースがあります。また、フリーアドレス化と同時に、集中作業・コミュニケーション・リフレッシュなどの各ゾーニングが適切に設計されていなければ、生産性が下がりかえって逆効果になってしまいます。
「トレンドとしてのABW」ではなく、「自社の業務特性・チーム構成・出社頻度に合わせた空間設計」として検討することが重要といえます。そのため、ABWの検討に際しては、現状の働き方を定量的に把握するプロセスが先行する必要があります。
具体的には、現在の出社率や各スペースの稼働状況・業務の種類・チームごとのコミュニケーション状況などを可視化した上で空間設計に落とし込むことが、ABW導入の成否を分ける鍵になります。こうした現状把握には、三菱地所リアルエステートサービスのOffice Wellによる現状調査が有効です。働く環境の実態を定量化し、ABW導入の検討材料として活用いただけます。
情報開示とセキュリティ体制の強化
ESGの「S(社会)」と「G(ガバナンス)」にまたがる要素として、情報セキュリティ体制の整備もオフィス選定に影響します。個人情報保護法の改正対応・ISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格)の取得検討・入退室管理の精度向上は、オフィスの物理的セキュリティ仕様(セキュリティゲート・監視カメラ・サーバー室の分離等)と密接に関わります。テレワークとの併用が進む中で、オフィスの「セキュリティ設計」は採用・取引先審査の両面から評価される要素になりつつあるといえるでしょう。
「S(社会)」の評価軸はチェック項目が多岐にわたり、自社だけで網羅しようとすると見落としが生じやすい領域です。オフィス評価に精通したプロに物件探しを依頼することが、確実な選定につながります。
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「他社が実際にどう動いたか」を知ることは、検討における大きな判断材料の一つとなります。ここでは、三菱地所リアルエステートサービスが支援した事例と、グループ会社へのインタビューを通じて紹介する事例、計2つを紹介します。いずれも「ESG対応のためのオフィス移転」ではなく、働き方や組織課題の解決を起点に動いた結果として、ESG経営の推進にも寄与した事例です。
従業員ファーストを体現したオフィス
はなさく生命保険株式会社のオフィス移転事例では、従業員の働きやすさと企業ブランドの可視化を両立させるオフィスづくりが実現されています。
注目すべきは「見た目のリニューアル」にとどまらない設計思想です。ブランドカラーの活用や、社内外に向けたメッセージ性の高い空間・ゾーニング設計、従業員ファーストの環境づくりは、ESGの「S(社会)」評価としてそのままESGレポートに落とし込める内容になっています。
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社会課題解決とイノベーションを生む空間
三菱地所ホーム株式会社の事例では、働き方の多様性と創造性を両立するオフィス設計が実現されており、移転後の組織的変化を「単なる環境改善」として語らない構成になっています。
重要なのは、移転という選択を「コスト」ではなく「経営投資」として位置づけ直したプロセスです。
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オフィス戦略の策定においては、他社が「どのような基準で物件を選び、課題を解決したか」というリアルな事例が、社内検討における強力な判断材料になります。
「他社の事例をもっと知りたい」「自社の課題に合わせて、何から手をつけるべきかプロの視点で整理したい」とお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。豊富な支援実績を持つ不動産のプロが、貴社の状況に合わせた最適なステップをご提案します。
今のオフィスはESG経営に適している?現状を見直すステップ
ESG経営への対応をオフィスの観点から考えるとき、「移転先をどう選ぶか」と同じくらい重要なのが「今のオフィスの現状を正確に把握できているか」という視点です。現行の契約内容・ビルスペック・働き方の実態を棚卸しせずに動いても、判断軸がぶれます。まず自社の足元を確認するところから始めましょう。
STEP1:自社の現状課題とESG要件の洗い出し
最初に整理すべきは「現在のオフィスに何が足りないか」ではなく「自社の経営課題・事業フェーズ・人員構成の変化と、ESG要件がどこで重なるか」です。たとえば「手狭になってきた」という課題は、面積拡張の検討であると同時に、ABW導入によるスペース効率の見直しや、環境認証ビルへの移転を同時に検討できるタイミングでもあります。
ESG要件の洗い出しは、取引先から要求されているデータ提出の範囲・融資申請に向けた環境性能の裏付けの必要性・採用強化に向けた職場環境整備という3軸から逆算すると、優先項目が絞られやすくなります。
STEP2:現行オフィスの環境性能・契約内容の確認
現行ビルの環境認証取得状況・空調設備の種別・電力供給の構成(再生可能エネルギー比率)を確認するには、賃貸借契約書・電力請求書・ビル管理会社への問い合わせが起点になります。しかしビルオーナーへの認証照会や契約書の原状回復条項の精査、電力請求書の収集といった作業は、担当者が他業務と並行して進めるには相当な手間と専門知識が必要です。実態として後回しにされやすい作業でもあります。
なお、現状把握は環境性能だけを切り出して見るべきものではありません。立地・面積・契約条件・働き方など複数の軸を同時に評価することで初めて、自社にとっての実態が見えてきます。「今のオフィスに大きな不満はないが、契約更新のタイミングが近づいている」「人員増加に備えて将来的な移転を視野に入れている」といった場合でも、現状を定量的に把握しておくことで、移転すべきかどうかの判断材料が揃います。市場の動向・競合物件との比較・退去タイミングの損益分岐といった軸での評価も、現状把握と並行して進めることが、タイムロスのない意思決定につながるでしょう。
STEP3:「居抜き」や「セットアップオフィス」を活用した環境負荷の低い移転検討
移転そのものの環境負荷を抑える手段として、内装を前テナントから引き継ぐ「居抜き物件」や、基本的な内装・設備が整った状態で引き渡される「セットアップオフィス」の活用が有効です。廃棄物の発生を抑え、内装工事の資材・エネルギー消費を削減できる点で、ESGの観点からも合理的な選択肢になり得ます。
ただし、退去時の原状回復条件は両者で異なります。居抜き物件では、前テナントの原状回復義務を引き継ぐ契約が一般的であり、入居時の工事費は抑えられても、退去時のコスト削減につながるとは限りません。一方、セットアップオフィスでは、基本的に入居時の状態に戻すことを原状回復の条件とするため、一般的な賃貸オフィスと比べて退去時のコストを抑えられる可能性があります。原状回復の範囲や費用負担は物件・契約によって異なるため、契約前に条件を確認することが重要です。
以上のステップを自社だけで進めようとすると、見落としや判断の遅れが生じやすくなります。三菱地所リアルエステートサービスの「Office Well(現状調査サービス)」は、立地・働く環境・面積・ビルスペック・時期という5つの要件を定量化・可視化するサービスです。ABW導入の検討に必要な働き方の現状把握から、環境性能を含むビルスペックの確認までオフィスに関わる幅広い課題を総合的に洗い出します。まずは現状の把握から始めたいという場合も、お気軽にご相談ください。
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ESG経営は、サプライチェーンを担うすべての企業にとって「対岸の話」ではなくなっています。SSBJ基準の適用、CSR調達ガイドラインの運用厳格化、採用市場における世代交代などが重なる中で、「まだ余裕がある」という認識のままでいられる期間は、業種・規模を問わず短くなっています。
しかし「何から動けばいいかわからない」「移転には時間とコストがかかるイメージがある」「稟議を通す材料が揃っていない」といったような壁が対応の妨げになってしまいます。
その壁を越える最初のステップとなりうるのが、「自社のオフィスが今どういう状態にあるか」を正確に把握することです。環境認証の有無・空調方式・契約内容・働き方とのマッチングなどを網羅的に把握している企業は、実は多くありません。
「OFFICE MARKET REVIEW 2025」 によれば、東京主要5区の潜在空室率は2025年12月末時点で1.92%(前年同月比-2.64pt)と、適正水準とされる5〜3%を大きく下回り、都心部を中心に完全な貸し手市場の局面を迎えています。需要の高まりにより空室が一般募集に出る前に成約するケースも増えており、希望条件に合う物件を選べる余地は着実に狭まっています。「条件に合う物件が出たら動けばいい」という戦略が通じにくくなっているのが現在の市場環境であり、今から情報収集と現状把握を始めることが、自社に合った物件を確保するための時間軸を確保することにつながるでしょう。
オフィス環境の最適化を検討する際は、三菱地所リアルエステートサービスの「Office Well(現状調査サービス)」をご活用ください。立地・働く環境・面積・ビルスペック・時期の5要件を可視化するOffice Wellの現状調査を起点に、候補物件のご紹介・移転サポートまで、オフィス戦略の専門家として一貫してサポートいたします。



